「パチソン」について考える

パチソンとは、偽物(パチモノ)の曲(ソング)という意味である。 「カバーソング」とも似ているが、カバーソングがすべてパチソンなのかと言えば、必ずしもそうではない。 これだけでは訳が分からないと思うので、もっと詳しく書いてみよう。

パチソンとは

ある日、家族がカセットテープを買い与えてくれた。 何やら「アニメソング大全集」というタイトルが付いている。 収録曲を見てみると、よく知っているアニメソングがずらりと並んでいるではないか。 期待に胸を膨らませ、早速再生してみる。 しかし、スピーカーから流れてきたのは、聞いたこともない声のおじさんが、微妙に違うメロディーと歌詞で、アニメソングを歌う音源だった…。

この記事をご覧いただいている方の中にも、このような経験をされた方は、少なからずいらっしゃるのではないだろうか。 この、謎のおじさん・おばさんが有名な歌をカバーしている音源こそが「パチソン」なのである。 ちなみに、パチソンは決してアニメソングに限定したものでなく、演歌・歌謡曲のパチソンも多数存在する。

パチソンを聞いてみよう

そうは言っても、私と同年代以下の方は、このような音源にはなじみがないはずだ。 最近は、音楽配信サービスなどを通じて、いとも簡単に「本物」が聞けるので、あえてパチソンを聞くことはほとんどないだろう。

実は、YouTubeなどの動画共有サイトには、パチソンが数多くアップロードされている。 しかし、いくらパチソンでも、市販されていた音源を無断転載したものをここで共有するのは、あまり好ましくない。 興味を持たれた方は、この記事を読んだ後で、ご自身で調べていただければと思う。

ヤフオクなどを使って、当時のカセットやレコード、CDを入手するという方法もあるだろう。 私は、ヤフオクのアラートメールのキーワードとして「パチソン」を設定しているのだが、ほぼ毎日何らかの出品があると言っても過言ではない。 ただ、CDならともかく、カセットやレコードは、再生できる環境を整えるだけでもなかなか大変だ。

そんな中、Amazon MusicやSpotifyなどのストリーミングサービスで、大量のパチソンが配信されるようになった。 「CTAアニソン倶楽部」というアーティスト名で、100曲以上が配信されている。 これらの音源はYouTube Musicでも配信されており、YouTube上で無料で聞くことができる。 以下、私なりに分類しつつ、いくつかご紹介しよう。

歌や演奏のクオリティが低いパターン

  • ガッチャマン
    • 歌っている歌手の名前は不明だが、パチソンの世界では「下手」ということで有名な人物(通称:「水木二郎」)
    • サックスなのかエレキギターなのかは不明だが、「ビリビリ」という不思議な音を奏でる楽器がなかなか耳障り
  • ウルトラマンタロウ
    • バックコーラスをしている児童合唱団の歌唱力、メインボーカルとコーラスとの息の合わなさは、素晴らしいとしか言いようのない完成度である

明らかなミスを含むパターン

  • ウルトラマンエース
    • 「北斗と南」→「北斗と皆で」
    • 「北斗の勇気が」→「ほんとの勇気が」
    • 「ヤプール人の」→「ヤブール人の」
    • 「魔の手がのびて」→「空手がのびて」
    • 「ふたりのリングが」→「ふたりのリーブが」
    • 「火をはなつ」→「火をはなす」
    • 演奏も歌もそこそこな完成度なので、ここまで歌詞が違うのは非常にもったいない
  • 宇宙戦艦ヤマト
    • 「旅立つ船は」を「タビタツフネワ」と歌っている
    • 「はるばるのぞむ 宇宙戦艦ヤマト」のメロディーが違う
    • 最後の「ヤマト」のメロディーを間違っているパチソンは、実はもう1つある
  • マッハバロン
    • 「じゅうりんされて」→「チューニングされて」
    • 「マッハコレダー」→「ああコレダー」
    • 「ぶっ放せ」→「ブックカーテン」
    • 「来たぞ ララーシュタインの」→「来たぞ ララッシュタインの」
    • 「マッハトリガー」→「ああトリガー」
    • お風呂で歌っているような深いリバーブ、ただ叫んでいるような歌い方、気が抜けてしまいそうなギターと、突っ込みどころ満載である

普通に上手なパターン

  • 銀河鉄道999
    • 歌っているのは「鈴木康夫」という人物で、オペラ歌手、ボイストレーナーとして活動している
    • 「アニメソング」の雰囲気とは合致しないようにも思うが、歌唱力そのものは悪くない
    • この音源は、かつてキングレコードからも発売されていたようだが、詳細は不明
  • 輝く瞳
    • 歌っているのは「藤井健」というスタジオ歌手
    • この歌手が歌うパチソンは数多くあり、まれに音域があっていなかったり、微妙に間違っていたりすることもあるが、平均的に「外れ」は少ない

結局「パチソン」とは何なのか

ここまでで、「パチソン」がどういうものであるか、なんとなくご理解いただけたのではないだろうか。 ここからは、さらにマニアックな話である。

何が「パチソン」で、何が「カバー」なのか。 無論、パチソンという言葉には明確な定義が存在しないので、そこに厳密さを求めるのは何かが違うようにも思う。 とは言え、インターネット上でこの手の情報を扱っているサイトを見ていると、おぼろげながら、いくつかの考え方があることがわかってきた。

「下手なカバーはすべてパチソン」

パチソンの「パチ」は、「パチモノ」、つまり偽物という意味である。 この表現は、本物と聞き比べたときの「これじゃない」という感覚を言い表しているように思う。 「カバー」と言えば、歌手が自分なりのアレンジを施して、それなりに「いい感じに」聞こえるように作られたというイメージを、少なくとも私は受ける。

ここまで取り上げてきたパチソンは、どこかのマイナーな会社が製作し、ホームセンターなどで安く販売していたようなカセットに収録されていたものだ。 しかし、大手のレコード会社がそれなりの予算を費やして作ったと思われる音源の中にも、歌詞や音が違っていたり、アレンジに問題があったりする音源が、時々存在する。 そういうものも含めて「パチソン」と呼んでしまおうというのが、この考え方である。

「マイナーな会社が作った音源はパチソン、大手レコード会社が作った音源はカバー」

一方で、「大手の会社が作った音源はパチソンではない」とする考え方もある。 つまり、マイナーな会社が作って販売している音源はパチソン、大手の会社が作って販売している音源はカバー、ということである。 演奏のレベルでなく、製作方法の違いによって分類しているのだ。

規模の小さな会社では、予算の都合などもあり、自社で0から音源を作ることが難しい。 そこで、音源を製作している会社が何社かあり、そこで作られた音源を購入しているのだという。 同じ音源を複数の会社が購入し、それぞれがカセットやレコードを製作・販売するため、同じ音源が収録された媒体が複数、しかも別会社の名義でリリースされている。 また、上記の「銀河鉄道999」のように、大手のレコード会社がこれらの音源を購入し、発売したというケースもあるようだ。

このブログにおける「パチソン」

このブログでは、「パチソン」の定義について、あまり厳密さを求めていない。 場合によっては大手レコード会社が製作した音源を取り上げるかもしれないし、パチソン関連の会社が作った童謡などの音源(必ずしもカバーとは言えない音源)を取り上げることもあるかもしれない。 マニアの方々から見ると、「これはパチソンではないのでは」と思われることもあるかと思うが、ご容赦いただきたい。

パチソンメーカーについて

では、実際にパチソンを製作・販売していたメーカーにはどのようなものがあるのか。 いくつか取り上げてみよう。 追加すべき内容があれば、ぜひお知らせいただきたい。

トーン

「パチソン最大手」と形容されたこともある会社である。 2000年代中期頃まで、カセットテープを製作していたことを確認している。

なお、一般には「トーンのカセット」や「トーンのパチソン」などと言われるが、実際には、以下の3社が分担して携わっていたようだ。

ボイスプロモーションは、近年は家庭用カラオケ音源の製作・販売を行っている。 かつては東京音楽工業を経由して商品を販売していたが、2020年以降は、自社で通信販売を行っている。 Webサイトの更新が滞っているようだが、現在でも、電話などで問い合わせをすれば商品を購入できるのではないかと思う。 主に、演歌のカラオケ音源を扱っており、毎月新曲を作り続けているようだ。 さらに、最近はAmazon MusicやSpotifyなどの音楽配信サービスを通じて、「ボイスカラオケ倶楽部」、「ボイスコーラス倶楽部」などのアーティスト名で、音源の配信を行っている。

トーンについては、残念ながら公式な情報を見つけられていない。 以前、「tonet」という、オーダーメイドでCDを製作するサービス(候補の中から曲を自由に選び、タイトルを指定して一定金額を支払えば、指定通りのCDを作ってくれるサービス)を行っていたようだが、2008年頃に終了してしまった。 その後の動向は一切不明である。

東京音楽工業は、ホームセンターなどにカセットやCDを卸したり、通信販売を行ったりしている会社である。 前述のとおり、ボイスプロモーションやトーンの商品の販売を行っていた。 また、他の会社の商品も扱っていたと思われる。 現在でも在庫のある商品は購入可能だが、「カラオケの新譜を希望する場合はボイスプロモーションへ」と案内しているようだ。 カラオケ以外の商品を新たに仕入れることがあるのかどうかは、残念ながらよくわからない。

CTA

「セントラル・テープエージェンシー」の略である。

やはりパチソンの世界では比較的有名な会社で、多数の商品を製作・販売していた。 また、自社でスタジオを持っていて、独自の音源(主にカラオケ練習用音源)を作っていたこともあるようだ。 他社から発売されているパチソンと同じ伴奏を使っていながら、ボーカルを差し替えた音源がいくつかあり、これらは自社のスタジオで歌を録音しているものと思われる。

現在各種音楽配信サイトで配信されているパチソンの音源は、「CTAアニソン倶楽部」というアーティスト名である。 CTAが自社で配信しているのか、CTAの音源を使って別の会社が配信しているのか、詳しい経緯は不明である。

ホメロス

調査中。

今後の予定

私は全盲の視覚障害者であり、写真などに書かれた文字情報を自力で確認することができない。 パチソン関連の情報を収集し始めてから半年以上経過しているが、私たちが確認できる形で提供されている情報は、驚くほど少ないのが現状だ。 オークションサイトなどに頻繁に出品されるパチソン関連のカセットやCDも、ほとんどの場合、メーカー名すら写真を見なければわからない。

ということで、私が所有しているカセットやCDの詳細を、このブログにまとめることにした。 情報量は決して多くないが、何らかの形で役立てられればと思う。 今後徐々に更新していくので、興味のある方は「パチソン」タグの記事一覧を時々チェックしていただきたい。