全盲の私はどうやってスマートフォンを使っているのか

この記事では、全盲の私がどうやってスマートフォンを使っているのかをご紹介しようと思う。 なお、前回の記事で、「スクリーンリーダー」という支援技術の存在など、視覚障害者がコンピューターを使う方法の概略について説明している。 そこで、この記事では、スマートフォンに特有の事柄に絞ってご紹介することにした。 スマートフォンの利用に興味のある方も、まずは前回の記事をご覧いただき、その上でこの記事の続きをお読みいただければと思う。

スマートフォンを使おうとして困ること:タッチパネルの壁

現在普及しているスマートフォンの多くは、指で画面をタッチして操作する「タッチパネル」を採用している。 このタッチパネルは、全盲の私たちにとっては絶望的に使えない操作体系だ。

  • 指で触れても、そこにボタンがあることを確認できない
  • ボタンの位置や大きさが動的に変化するので、画面を見なければ、どこに何があるかがわからない
  • 軽く触るだけで反応してしまうので、「ボタンの周辺に手がかりのシールを貼り、そこからボタンを探す」といった方法は事実上使えない

つまり、タッチパネルというのは、「決められた場所を決められたように触らなければ操作できない」という特徴があり、そのためには画面を「見る」ことが必要なのだ。

解決策:スクリーンリーダーの役割を広げる

視覚障害者がコンピューターを使う際に欠かせないのが「スクリーンリーダー」という支援技術だ。 画面に表示された内容を音声や点字に変換するのが、その主要な役割だ。

スマートフォンのスクリーンリーダーは、表示された内容をただ読み上げるのでなく、視覚障害者がタッチパネルを操作できるようにするために、操作体系そのものを変更してしまう。 大きな特徴は、操作対象を表す「カーソル」の概念を、スマートフォンの操作に導入するということだ。

画面のどこかをタッチすると、その位置にある項目にカーソルが移動する。 そして、カーソルが当たった項目が何であるかを読み上げる。 タッチした場所に何もなければ、「何もない」ことを表す何らかのフィードバックがある。 この「カーソルの移動」は、スマートフォンの通常の操作で言えば、画面を見て何が表示されているかを探索している状態、あるいは目的の項目を見付けてタッチする準備をしている状態に相当する。

では、目的の項目を見付けたとき、それを「押す」操作はどうするのか。 これは、画面をダブルタップすれば良い。 ダブルタップする場所はどこでも良く、「画面を2回タップする」という動作さえすれば、その時点でカーソルがある項目を「押す」動作になるのだ。

それでも、画面の様子を視覚的にとらえられない状態で、表示された項目をくまなく確認するのは難しい。 そこで、画面を1本指で左右にスワイプすることで、前後の項目にカーソルを移動することができる。 つまり、「何がどこにあるのか」をまったく考えなくても操作できるよう、工夫されているのだ。

スマートフォンのスクリーンリーダー

スマートフォンのスクリーンリーダーは、別途インストールしなくても最初から組み込まれていることが多い。 そのため、どなたでも気軽に試してみることができる。 ただし、前述のように操作体系が変わってしまうため、戻し方を十分確認した上でお試しいただくのが良いだろう。

iPhoneには「VoiceOver」という機能がある。 音声アシスタントのSiriに「ボイスオーバーをオンにして」と話しかけるのがもっとも簡単だろう。 逆に、オフにしたければ「ボイスオーバーをオフにして」と言えば良い。

一方、Androidには「TalkBack」という機能がある。 ただし、Androidスマートフォンは各社から発売されており、さまざまにカスタマイズされている。 TalkBack自体が入っていない、日本語の音声が入っていないなどの状況も考えられる。 Google純正のPixelシリーズを使うのがもっとも確実かもしれない。 なお、Samsung社のGalaxyシリーズには「Voice Assistant」という、TalkBackをカスタマイズしたものが搭載されている。

スマートフォンは視覚障害者にとって非常に有益な道具

VoiceOverなどのスクリーンリーダーを使うことで、目が見えなくてもスマートフォンはある程度使用できる。 現時点で、スクリーンリーダーで使用できないアプリもあるが、それはパソコンでも同じことだ。 また、アクセシビリティを高める活動はいろいろな場所で行われており、私たちにも使えるアプリは日々増加している。

さらに、スマートフォンのアプリの中には、目が見えない私たちの生活をより便利にしてくれるものも多くある。

  • 写真に写っている文字を認識して読み上げるOCRアプリ
  • ナビゲーションなど、歩行を補助してくれるアプリ
  • 「困ったときに目の見える人からサポートを得る」手段としてのビデオ通話

これらは、視覚障害者専用に作られた支援機器でもできることだが、それぞれの専用機を購入するのはなかなか大変だ。 もちろん、専用機には専用機ならではのメリットも多くある。 それでも、スマートフォンという広く普及したデバイスを、簡易的な支援機器として活用できるというのは、有意義なことではないかと思う。

終わりに

ここまで、パソコンとスマートフォンを全盲の私がどうやって使うのか、というテーマでいろいろと解説してきた。 ところが、未だに触れていないものに「タブレット端末」がある。

とはいえ、ここまでで述べたことは、タブレット端末にも概ね当てはまる。 iPadでもVoiceOverが使えるし、Android搭載のタブレットならばTalkBackを使えば良い。 もしも、タブレットにWindowsが入っているならば、Windows用のスクリーンリーダーを導入すれば良い。 Windowsのスクリーンリーダーにも、voiceOverなどと同じようなタッチ操作対応が入っているし、必要ならばキーボードを使えば良いのだ。

私自身、今はWindowsのパソコンをメインで使用しつつ、適宜iPhoneとiPadを併用している。 今後も、しばらくはこの環境を使い続けるだろう。 何か変化があれば、ぜひこのブログでも取り上げたいと思っている。