ZOOM H4essentialを使ってみた

この記事は、ZOOMのハンディーレコーダー「H4essential」のレビューである。 レコーダーとしての性能や専門的なことは他のサイトに譲るとして、「全盲の私が、本体の音声ガイド機能のみを頼りにどこまで使えるのか」ということに主眼を置いて解説する。

はじめに

私は以前から、「ハンディーレコーダー」と呼ばれる製品に興味を持っていた。 誤解を恐れずに言うならば、要するに「ICレコーダーがとても本格的になったもの」である。 そもそも音質が良かったり、内蔵マイクと外部機器からの入力など、複数の音源を同時に録音できたりといった部分に魅力を感じていた。

ところが、このような機器を私が自由に操ることができるのだろうか、という思いもあった。 録音に関するいろいろな設定をしようとすると、メニューをたどって目的の項目を見つけ、意図したように設定する作業は避けて通れないだろう。 多くの場合、この手の機械を触るときはメニューの構造を一生懸命覚えてどうにかするのだが、それは決して簡単なことではない。

そんなことを考えつつ、何気なくZOOMのサイトを見ていたら、新しいハンディーレコーダーの製品ページを見つけた。 詳しいことはよくわからないが、どうやら「32ビットフロート録音」という方式で録音できて、レベル(音量)の調整が要らないのだそうだ。 一般的な録音では、想定よりも大きな音を録音すると「音割れ」が起きてしまい、その部分の音声が壊れてしまう。 音割れした部分の音量を編集で下げたとしても、本来の音に復元することはできない。 そんなことが起きないように、録音前には想定される最大の音量を出してみて、念入りにレベル調整をするわけだ。 ところが、本機にはレベル調整という概念がない。 音割れしたように聞こえる録音でも、後で音量を下げれば本来の音に復元できるのだそうだ。 何やら面白そうだな、というのが率直な私の感想だった。

そんなことを考えながら続きを読んでいると、こんな文章を発見した。

Essentialシリーズは、視覚障がい者のためのアクセシビリティを考慮して設計されました。内蔵スピーカーやヘッドフォンを通して、設定メニューを音声で読み上げます。英語、スペイン語、フランス語、日本語、ドイツ語、イタリア語、中国語での音声読み上げに対応します。

なんと、音声読み上げ機能が付いているというのだ。 この音声読み上げ機能の性能によっては、私でも自由に使いこなすことができるかもしれない。 さらに、前述したように本機にはレベル調整の概念がないため、「メーターの状態がわからず適当に調整をしたら音割れしてしまった」という失敗も防げるだろう。

ということで、どの程度使えるのかを確かめるべく、早速購入してみることにした。

とりあえず結論から

この後の内容と重複するが、最低限の情報を先に書いておく。

「全盲でもH4essentialは使えるのか」という問いへの答えは、「十分に使える」である。 現時点で実際にどこかに持ち込んで録音をしたわけではないが、おそらく困ることはないだろうと思う。

なお、少々マニアックな話であるが、本機の音声ガイドは、あらかじめ録音された音源をつなぎ合わせることによって実装している。 つまり、機械音(合成音声)ではない。 そのため、ファイル名などは読めない。

その一方、表示言語の設定の影響を受けることがない。 本機を初めて起動すると、英語で読み上げが始まる。 この音声を聞きながら初期設定を進めていくと、言語を選ぶ画面になる。 Androidスマホの初期設定などでもそうだが、ここで日本語を選んでしまうと、表示と読み上げの言語が合わないために操作不能に陥ることがよくある。 本機の音声ガイドは、単純に「この画面ではこのガイドを出す」という風に実装されていると思われ、表示の言語が日本語であったとしても、そのまま英語を喋り続ける。

外観と各キーの位置

マニュアルを見ても理解しづらい、各キーや端子の位置を書き留めておこう。

本機は、縦長の長方形の形をしている。 大きな丸い端子が横に2個並んだ側を手前にして使うのがおそらく正解。 これらの端子は、外部機器からの音声を入力するためのもので、左がINPUT 1、右がINPUT 2である。 「XLR」や「キャノンコネクター」と呼ばれる、マイクを接続する端子と、ライン入力のための標準フォンジャックが一緒になっている。 左右を独立したモノラル入力として使うことも、ステレオの左・右として使うこともできるようだ。

本体奥側に、内蔵XYマイクがある。 この形状が独特で、2本のマイクが途中で交差したような形をしている。 左奥の角から、右奥に向かってマイクが伸びている。 反対も同じで、右奥の角から、左奥に向かってマイクが伸びている。

続いて、本体表面の説明である。 表面奥に、横長のディスプレイがある。 そのすぐ下に、横長のMIXERキーがある。 その下には、大きな丸いRECキーを中心に、左上にSTOPキー、右上にPLAY/PAUSEキー、左下にREWキー、右下にFFキーがある。 STOPキーは、ホーム画面(最初の画面)に戻るキーとしても使われる。 左下のREWキーは前のファイル、右下のFFキーは次のファイルに移動するときに使う。 その下には横に3個キーが並んでいて、これらはトラックキー、つまりそれぞれのトラックを録音するかどうかを切り替えるキーである。 左がINPUT 1、中央がMIC(内蔵XYマイク)、右がINPUT 2に対応している。

続いて、左側面。 一番上にあるのが、MIC/LINE IN端子である。 ここには、プラグインパワー対応のマイク(パソコンのマイク端子などに接続するマイク)を接続でき、内蔵XYマイクの代わりに使えるようだ。 その下にはPHONE/LINE OUT端子がある。 本機にはモノラルスピーカーが付いており、簡易的なチェックや音声ガイドの確認は可能だが、入力された音源をモニターするには、この端子にヘッドフォンなどを繋ぐ必要がある。 その下のつまみがVOLUMEである。 さらにその下に、カバーで隠されたmicroSDカードスロットがある。 このカバーは、上側に爪を引っかけて開けるタイプで、下側は固定されていて完全には外れない。

続いて、右側面。 同じように上から触ってみると、上下に動くスライドスイッチがあり、これが電源/HOLDスイッチである。 このスイッチは、下に引いて手を離すと電源スイッチとして、上に動かすとHOLDスイッチとして機能する。 なお、電源スイッチの操作では、スイッチを手前に引いて、しばらく待ってから手を離すようにすると確実だ。 その下には、取り外し可能なゴムのカバーで隠されたREMOTE端子がある。 ここに専用のアダプターを接続すると、スマートフォンなどからワイヤレスで操作ができる。 その下には、USB端子(Type-C)がある。 さらにその下に、セレクトダイヤルとENTERキーがある。 本体表面に近い側にあるのがセレクトダイヤルで、縦に動かして項目を選択する。 回したときにクリック感があり、大変わかりやすい。 セレクトダイヤルで選んだ項目を実行するときに、ENTERキーを押す。

本体裏側には、電池カバーがある。 本機は単三電池2本で動作する。 また、USB電源で動かすこともできる。

初期設定

それでは、早速電源を入れてみよう。

本体にスピーカーがあるので、特に何も接続せず、VOLUMEをある程度上げ、電源スイッチを動かしてみる。 起動したことを知らせる音楽が聞こえるはずだ。

初めて電源を入れると、初期設定をする画面が表示される。 この時点から音声ガイドがあるので、安心して作業できる。

まず最初は、ガイド音の設定だ。 最初はオフになっているが、セレクトダイヤルを動かすと、英語とビープ、ビープのみ、オフ、のいずれかを選択できる。 購入直後は英語のガイド音しか入っていないので、残念ながら日本語を喋らせることはできない。 そこで、今回は英語とビープ、English and Beepというのを選んでENTERキーを押す。

なお、間違って別の項目を選んでENTERキーを押してしまったら、慌てずに電源スイッチを動かして、1度電源を切れば良い。 どうやら、初期設定の内容が保存されるのは、初期設定を最後まで終わらせたタイミングのようだ。 なので、途中で電源を切れば、これまでの内容を捨てて最初から設定をやり直すことができる。 改めて電源を入れれば、音声ガイドが復活するはずだ。

ガイド音を設定したら、次は言語設定だ。 最初は英語になっているが、セレクトダイヤルを動かせば日本語が見つかるだろう。 ここで設定した言語と、ガイド音の言語はまったく別なので、ここで日本語を選択しても、引き続き英語でガイドされる。 また、この設定をガイド音の言語と合わせる必要はなく、どの言語に設定しても、同じようにガイドが流れる。 ここでは、日本語を選んでENTERキーを押す。

続いて、日付形式の設定だ。 これは、録音したファイルのファイル名に影響する。 適宜設定して先に進もう。

次は、日時の設定だ。 ここは、セレクトダイヤルで設定したい項目を選んでENTERキーを押し、またセレクトダイヤルで適切な値を選んでENTERキーを押す、という操作を繰り返す。 上から順に、年、月、日、時、分、OKという順序になっている。 なお、設定値を変更するときは、上に行くほど数値が大きくなる。

次は、電池タイプの設定だ。 アルカリ乾電池、ニッケル水素蓄電池、リチウム乾電池の中から、適切なものを選んでENTERキーを押す。

以上で、初期設定が完了し、ホーム画面が表示される。 録音待機状態であることを知らせるガイドが聞こえるはずだ。

日本語のガイド音を入れる

この状態でも機器の操作はできるが、日本語の音声ガイドがあった方がわかりやすいかもしれない。 ということで、インストール方法を簡単に書いておこう。

まず、ZOOMのサイトから、最新のガイド音(アクセシビリティファイル)を入手する。 ここに具体的なURLを書いてしまうと、将来的に変更された際に混乱の原因になるので、あえて記載しない。

ダウンロードしたZIPファイルを展開すると、拡張子がBINのファイルがある。 これを、本機で使用するmicroSDカードのルート(どのフォルダの中でもなく、microSDカードの直下)にコピーする。 microSDカードをPCに差し込んでコピーしても良いし、microSDカードを挿入した本機をUSBで接続してファイルをコピーする方法もある。 USB経由のコピーは、ホーム画面で「USB」、「File Transfer」、「PC/Mac」と進むと実行できる。 PC側にmicroSDカードの中身が見えるはずなので、ファイルをコピーすれば良い。 ファイル転送が終わったら、ENTERキーを2回ほど押して、このモードから抜ける。 おそらくホーム画面に戻っているはずだ。

それでは、実際のインストールに進もう。 ホーム画面から「System Settings」、「Accessibility」、「Version」、「Install」、「Execute」と進む。 しばらく待っていると、日本語で「完了」と読み上げるはずだ。 この状態では、先ほど「Version」を選んだ直後の画面になっているので、STOPキーを押してホーム画面に戻る。

録音

それでは、早速何か録音してみよう。

まずは、どのトラックを録音するかを選ぶ必要がある。 本機は、最大4トラックを同時に録音できる。 つまり、MIC(ステレオなので2トラック)、INPUT 1、INPUT 2のすべてを同時に録音できるというわけだ。 それぞれのトラックを録音するかどうかは、本体表面手前側の各トラックのボタンを押して切り替える。

問題は、現在どのトラックが録音状態になっているかをどのようにして把握するかということである。 まず、PHONE/LINE OUT端子にヘッドフォンなどを接続してモニターしている場合、そこに聞こえてくる音は録音されると思って差し支えないだろう。 ところが、内蔵スピーカーで音を聞いているようなケースではどうするのか。 まず、MIXERキーを押す。 この画面では、各トラックの音をどれくらいの音量で聞くか(録音するかではない)を調整できる。 セレクトダイヤルを回して、たとえば「マイク」を選んでENTERキーを押してみる。 このときに「0」などと言って、音量を調整できる状態になれば、このトラックは録音状態になっている。 試しに、もう1度ENTERキーを押して調整するトラックを選ぶ状態にしてから、手前の中央にあるMICトラックのキーを押して、このトラックを録音しない状態に切り替えてみよう。 この状態でENTERキーを押しても、音量調整はできない。 やや面倒かもしれないが、このようにして、どのトラックが今録音されているのかを確実に把握することができる。

録音の準備ができたら、RECボタンを押してみよう。 この瞬間に内蔵スピーカーがミュートされるらしく、PHONE/LINE OUT端子の音を聞かなければ、本当に録音が開始されたかどうかを確認できない。 PHONE/LINE OUT端子からは、普段のキー操作と同じくビープ音が聞こえるはずだ。

録音を止めたいときは、再度RECキーを押すか、STOPキーを押す。 「ピピ」と2回ビープ音が鳴れば、録音は止まっている。

再生

PLAY/PAUSEキーを押すと、録音した音声の再生が始まる。 このとき、表示はホーム画面ではなく、再生のコントロールをするための画面に切り替わっている。 もう1度PLAY/PAUSEキーを押すと、この画面のまま再生を止めることができる。 STOPキーを押して再生を止めた場合には、ホーム画面に戻る。

REWキーとFFキーを使って、再生するファイルを切り替えることができる。 最後のファイルでFFキーを押すと最初のファイルに、最初のファイルでREWキーを押すと最後のファイルに移動する。 また、REWキーは、ファイルの途中を再生しているときに押すとそのファイルの先頭に、先頭付近を再生中に押すと前のファイルに移動する。

メニュー操作の基本

これまでの説明でも利用してきたが、「メニューから項目を選んで実行する」という操作について、改めてまとめておこう。 セレクトダイヤルを回すと、その時点で利用可能なメニュー項目を確認できる。 実行したい項目を選んでENTERキーを押すと、選択した項目が実行される。 基本的には、その繰り返しである。 なお、ENTERキーの逆、つまりESCAPEやEXITのようなキーは、本機には存在しない。 その代わり、前の画面に戻るための「バック」という項目が、ほとんどのメニューにある。

最後に

ここまで、かなり乱暴な説明をしてしまったのだが、ある程度イメージは伝わったのではないだろうか。 私自身、本機を購入してまだ1日しかたっておらず、十分に検証できていない部分が多々ある。 今後、さらにいろいろと触ってみて新たな発見があれば、ぜひこの記事に追記していきたいと思っている。